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松江地方裁判所木次支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人石原光〓を懲役六月に、同伊藤一助、同高岡吉延を各懲役四月に処する。

ただし本裁判確定の日から四年間いずれも右刑の執行を猶予する。

被告人伊藤一助から金一三、〇〇〇円を、同高岡吉延から金五、〇〇〇円をそれぞれ追徴する。

訴訟費用は全部被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らは、いずれも、昭和三八年四月一七日施行の島根県議会議員選挙に際し、飯石郡地区から立候補した永業蔵義の選挙運動者であるが

第一、被告人石原光〓は昭和三七年一〇月末頃から右永業蔵義が同選挙に立候補する決意をもつていることを知り、同人に当選を得させる目的をもつて、立候補届出前である同三八年三月二四日頃藤原俊男を介し、同郡掛合町一、〇八四番地島田旅館内永業蔵義後援会連絡事務所において、被告人高岡吉延に対し、同郡三刀屋町における選挙運動者高尾正太郎ら十数名に右永業蔵義のため投票取りまとめの選挙運動をする報酬等として供与することを依頼して現金三〇、〇〇〇円位を交付し、もつて立候補届出前の選挙運動をし

第二、被告人高岡吉延は同三七年一二月中旬頃から右永業蔵義が右選挙に立候補の決意をもつていることを知り、同人に当選を得させる目的をもつて、立候補届出前である

(一)  同三八年三月一六日頃同郡三刀屋町大字殿河内三〇二番地妹尾直義方において、選挙人森田博、同妹尾治、同妹尾己一郎の三名に対し、右永義蔵義のため投票ならびに投票取りまとめの選挙運動を依頼し、その報酬として一人あたり約二四九円相当の酒食の饗応接待をし

(二)  同年三月二五日頃同郡同町大字三刀屋二四四番地有限会社三刀屋自動車修理工場において、選挙人佐々木吉一に対し、右永業蔵義のため投票ならびに投票取りまとめ選挙運動を依頼し、その報酬として現金二、〇〇〇円の供与の申込をし

(三)  前同日同郡同町大字同一、〇四二番地菅田理髪店において、選挙運動者高尾正太郎に対し、前同様の依頼をしその報酬等として現金六、〇〇〇円を供与し

(四)  同月二六日頃同郡同町大字六重落合商店附近路上において、選挙運動者川津武芳に対し、前同様依頼しその報酬等として現金三、〇〇〇円を供与し

(五)  前同日前同所において、右川津武芳に対し、選挙運動者宮崎善三郎に前同様の趣旨で供与することを依頼し現金三、〇〇〇円を交付し

(六)  前同日頃同郡同町大字三刀屋二七六番地の二被告人伊藤一助方において、同人に対し、選挙運動者吉岡泰蔵外数名に前同様の趣旨で供与することを依頼し現金一三、〇〇〇円を交付し

もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をし

第三、被告人伊藤一助は前記第二の(六)記載の日時場所において、被告人高岡吉延から同項掲記の趣旨のもとに交付されるものであることを知りながら現金一三、〇〇〇円の交付をうけ

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

法律によると、被告人らの前記行為中被告人石原光〓の金員交付の点は公職選挙法第二二一条第一項第五号(第一号)に、事前運動の点は同法第二三九条第一号第一二九条に該当し、以上は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項前段第一〇条により重い右交付罪の刑に従うべく、所定刑中懲役刑を選択しその刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処する。被告人高岡吉延の酒食の饗応接待、金員供与、同申込の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、金員交付の点は同条第一項第五号(第一号)に事前運動の点は同法第二三九条第一号第一二九条に各該当し、右事前運動とその他の行為はそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項前段第一〇条によりいずれも重い買収の罪の刑に従い所定刑中懲役刑を各選択するところ、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文第一〇条により犯情最も重い前記第二の(三)の供与罪の刑に法定の加重をし、その刑期範囲内で同被告人を懲役四月に処する。被告人伊藤一助の金員受交付の点は公職選挙法第二二一条第一項第五号(第一号)に該当するから所定刑中懲役刑を選択しその刑期範囲内で同被告人を懲役四月に処する。そして、情状刑の執行を猶予することを相当と認め刑法第二五条第一項により被告人らに対しこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、被告人高岡が交付をうけた金員中供与又は交付しなかつた金五、〇〇〇円及び同伊藤が交付をうけた金一三、〇〇〇円はこれを没収することができないから公職選挙法第二二四条に従い同被告人らから主文第三項掲記のとおりその価額を追徴する。なお訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人らの負担とする。

なお弁護人は被告人三名間の金員の授受はいわゆる共謀者間における金員の授受であるから、被告人石原の同高岡に対する金三〇、〇〇〇円の交付、同高岡の同伊藤に対する金一三、〇〇〇円の交付、同伊藤の右金一三、〇〇〇円の受交付の各罪はいずれも成立しないと主張する。そして供与罪の共謀共同正犯者間の金銭の授受は交付罪を構成しないとする一連の判例(大審院昭和一二年六月二二日、東京高等裁判所昭和二六年一〇月三〇日、同二八年六月二〇日、高松高等裁判所同二九年二月二九日、福岡高等裁判所宮崎支部同三一年九月二八日各言渡)があるが、第三者に対する供与等を共謀した共犯者間の金銭の授受が交付罪を構成しないのは、該授受がいわば共謀者が互に手足となり一心同体のような立場で買収実現のためにする内部的な準備行為と見られる場合、言い換えれば交付罪が処罰の対象とする金銭又は物品の所持の移転という構成要件にあたらないと考えられる場合に限ると解すべきである。若し共犯者の概念を広く解し少しでも供与等の共謀と見得る行為がある以上その共犯者間での金銭の授受が全く交付罪を構成しないとすれば、交付罪の成立する場合は殆んど考えられなくなり交付罪の設けられた趣旨はすべて没却されることとなる。また受交付者が交付者の意を体して交付をうけた金員を供与したときは交付者は供与罪の共同正犯となり交付罪はこれに吸収されて別罪を構成せず、受交付者がその一部を供与しなかつた場合でも交付罪は成立しないとする判例(名古屋高等裁判所昭和二九年九月一四日言渡)があることも弁護人指摘のとおりであるが、受交付罪は受交付者が金員交付の目的を知つてその交付をうけることにより成立し受交付者において買収を実行する意思があることを要しないから、受交付者が右目的を知つていたことのみで直ちに交付者との間に供与の共謀があるとはいえない。若しそうでなく受交付者が交付の趣旨に従い供与したときは常に交付者について受交付者と共謀による供与罪が成立し交付罪は常に吸収されるとするならば、両者間の金員の授受は共謀者間の金員の授受となり、供与の実行を見ない以上罪とならないこととなり、これまた供与罪のほかに交付罪が独立して設けられた趣旨を全く没却するものというべきである。従つて交付者と受交付者との間に単に交付の目的について意思の連絡があるに過ぎない場合、あるいは両者の関係が供与罪の教唆又は幇助的立場にあるに過ぎないと見ることを相当とするような場合には交付罪は供与罪に吸収されないものと解すべきである。これを本件についてみるのに、前掲被告人等の検察官に対する各供述調書、被告人等の当公廷での供述の一部を総合すると、昭和三八年三月初頃と同月一八日頃に、被告人伊藤から同石原に対し選挙運動の効果をあげるため自分の下で動いてくれる筈の三刀屋町地区の選挙運動者高尾正太郎等八名位に二、三千円の現金を自分の手を通さず直接渡してやつてもらいたい旨要望したこと、これに対し被告人石原は相談のうえ善処すると言葉をにごし明確な返事をしなかつたが再度の要望があつたので同月一八日頃島田旅館において三刀屋町出身である被告人高岡に対し同伊藤の右申出を伝え意見を求めたところ、同被告人は伊藤のいうことならまちがいなかろうから出してもよいと思う旨答えたこと、その後同月二四日判示第一記載のように被告人石原は藤原俊男を介し同高岡に現金二、〇〇〇円と三、〇〇〇円入の封筒合計一四通位と配付先の住所氏名を記載したメモを手交し、大部分は同伊藤の系統の者であるがなるべく速かに配付するよう依頼したこと、右メモには同伊藤の申出た者以外の配付先として川津武芳、宮崎善三郎、三上正清、三刀屋運送等の記載があつたこと、被告人高岡はこれを受取り右メモの記載に従い同月二五、二六日の両日にわたり判示第二の(一)、(三)ないし(五)記載のように供与又は交付したほか自己の判断で三刀屋自動車こと佐々木吉一に供与の申込をしたが、なお届先の場所がわからないものがあつたため始めて同月二六日被告人伊藤方を訪れ同人に尋ねたところ同被告人が進んで自分の方で配るというので残つていた前記現金入封筒八通中吉岡泰造、谷口〓、樋口孝次郎、安井誉、石飛庄太郎、伊藤某の分として六通を同人に交付し、残り二通を持ち帰り配付しなかつたこと、右のうち石飛庄太郎と伊藤某は先に被告人伊藤が申出た運動員以外の者でありそのうち伊藤某は前記川津武芳の父川津多栄の系統の運動員であることをそれぞれ認めることができる。右認定事実によれば(一)被告人石原は同伊藤の要望に対し確答を与えないまま独自の立場で情勢を検討のうえ同被告人申出の同人系統の運動員のみならず他の系統の運動員に対する配付をも計画し、被告人高岡に対し同伊藤を介することなく直接配付するよう依頼して交付したものであり、同高岡が同伊藤に一部の金員を交付するようなことは予想していなかつたものというべく、一方被告人伊藤としてはもともと同石原の方で直接配付するよう要望し自ら実行行為に加わることを避けていた位であり、かつ同高岡から交付をうけた金員中には自分の申出ていない他系統の運動員の分が含まれていたのであるから、被告人伊藤は同石原と一心同体の関係で右金員供与を共謀したと認めるべきでなく教唆的立場に立つ者というべきである。(二)被告人石原は藤原俊男を介し前記現金入封筒を同高岡に交付する以前に、前段認定のように同被告人に対し同伊藤の要望につき意見を求めたことが一度あるだけでそれ以上右配付計画の樹立に関し同高岡と具体的な協議等をした形跡は少しも認められないから、同石原と同高岡間に前記金員の供与について一心同体的ともいうべき具体的な共謀関係が存在したと認めるべきでない。(三)さらに被告人高岡は配付先の住所を確めるため同伊藤方を訪れたところ同被告人が自ら配付することを引受けたため自己の判断でこれを依頼して交付した関係があるのみであつて、それ以上何ら金員供与について具体的協議をした事実もないのであるから同高岡と同伊藤間においても金員供与に関し一心同体的な共謀関係があると認めることはできない。

以上認定の事実関係のもとにおいて、被告人石原、同高岡、同伊藤間に直接又は順次に本件買収について相互に手足となり一心同体となつて実行する趣旨の共謀関係があるということができず、従つて右三者間の金員授受が、単に買収実現のためにする共謀者内部間の準備的行為と同一視されるべき場合にあたらないというべきであるから、弁護人の右主張は採用することができない。よつて主文のとおり判決する。

(昭和三九年四月二日 松江地方裁判所木次支部)

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